日本人の健康のために農家の視点からオリーブオイルを科学する
東京大学国際オープンイノベーション機構
健康寿命延伸データサイエンス社会連携講座
一年半の研究を経て
(2019.4~2020.11)

オリーブと柑橘の農園、井上誠耕園(所在地:香川県小豆郡小豆島町池田)の園主・井上智博は、2019年の4月より発足した東京大学国際オープンイノベーション機構「健康寿命延伸データサイエンス社会連携講座」のプロジェクト4「地中海式食事法における健康寿命延伸効果の解析と検証」に、共同研究員として参加しました。本講座の目的はビックデータの分析に基づいて健康寿命延伸に寄与する要因を見出し、社会・経済学的、工学的、医学的考察を加え、効率的に健康寿命を延伸するための道筋を提示することです。人々の心身の健康に貢献できる日本品質の農作物づくりを目指している当園にとって、「健康寿命延伸」というテーマに共感するものがあり、参加を決めました。医学、工学、産業の立場から共同して研究を進める中で、井上誠耕園は、国産のオリーブオイルを生産する農業者(産業)の立場から参加し、医療法人笑顔会・東京大学農学部院生とともに、約1年半かけて研究を進めてきました。

■世界中の論文から紐解いたオリーブが持つ可能性の新たな発見

研究の中で世界中から集めた20本以上のオリーブや柑橘に関する「食」と「美容」の論文を読解し、特にオリーブオイルは食品でありながら、ときに薬のような力を持ち私たちの健康の一助となることが分かりました。例えば約6年間、オリーブオイル、ナッツ、低脂肪食を摂ったグループで、認知低下がどれくらいあったのかを比較した実験では、オリーブオイルとナッツを用いたグループで認知低下が抑制されたという結果(※1)があり、平均寿命が伸び続ける日本で大きな問題になっている認知症にオリーブオイルが役に立てる可能性があると分かりました。
また、60~80歳の心血管疾患のリスクが高い女性4282人を、オリーブオイル、ナッツ、低脂肪食を摂るグループに分けて約6年間経過を観察したところ、オリーブオイルを用いたグループの乳がん発症率が最も低く、乳がんの一次予防にオリーブオイルを始めとする地中海式食事法が効果的であるという可能性が示唆されています(※2)。

そのほかにも脳卒中や高血圧など、様々な研究が行われており、オリーブオイルの力が論文で証明されています。その効能のメカニズムは、まだ解明されていないことが多いものの、多くの論文ではオリーブオイルに含まれるポリフェノールによるものであるだろうと示唆されています。実はより若い実から搾ったオリーブオイルのほうが、抗酸化作用の強いフェノール成分、オレオカンタールの量が多く、かつ健康への効果も高いことを実証する論文(※3)もあるのです。その論文の中には、オリーブオイルに含まれる成分は、栽培品種だけでなく、栽培技術や気候条件も大きく影響されるとあり、灌漑(かんがい)の仕方や熟度の見極めなどの栽培技術が、オリーブオイルの健康効果を左右することが分かってきました。

オリーブオイルづくりでの熟度の見極めは非常に難しく、果実が若すぎればポリフェノール量は多いもののえぐみが強くなり、熟しすぎると健康効果が下がってキリっとした爽やかさが少なくなります。井上誠耕園ではこれまでの研究で紐解いた論文を踏まえて、ポリフェノール量が多い健康に良いオイルでありながらも美味しく食べられるオリーブオイルを目指して、今後の栽培指針に生かしていくことにしました。中でも灌漑(かんがい)については、収穫の直前は灌漑(かんがい)を停止してポリフェノール量を高めるなどの工夫を研究しながら実施していきます。

■食べてよし、塗ってもよしのオリーブオイルの良さを改めて実感

日本においても「オリーブオイルを食べることが健康に良い」ということの認知は浸透してきましたが、実は食べるだけでなく、“塗る”ことで肌にもよい作用があることが論文で証明されています。一つ目は、床ずれの患部にオリーブオイルを毎日塗るだけで、緩和や防止につながる(※4)という論文。さらには、オリーブオイルから抽出したエキスを配合したクリームを肌に塗って直射日光をあてた結果、メラニン色素の反応が少なくなったという論文(※5)も。

オリーブオイルが肌に使用され始めてからの歴史は長く、古代エジプトの女王・クレオパトラも愛用していたとされています。これだけ長くスキンケアに使われ続けてきたのは、美容効果の高さや安全性が長い歴史の中で経験的に知られていったからです。今回の研究の中で、オリーブオイルの肌への効果の高さを目の当たりにし、“歴史が古く当たり前のように使われてきたことから、なぜ肌によいのかあまり知られていない”という現状を変えていきたいと考えました。そこで医療法人笑顔会が、今回読解した論文をまとめた「オリーブオイルと肌(美容)」についてのレビュー論文の執筆を進めており、来年発表を予定しています。
約一年半の共同研究は、コロナ禍での研究の難しさもあり2020年11月末を持って一旦終了しますが、研究の中でオリーブオイルが持つ大きな可能性を探ることができました。今後も井上誠耕園は「オリーブオイルと健康寿命延伸」をテーマに、オリーブオイルの素晴らしさを広めていく活動をしていきます。

東京大学健康寿命延伸データサイエンス社会連携講座ホームページ:https://ehl.t.u-tokyo.ac.jp/
※1 Mediterranean Diet and Age-Related Cognitive Decline A Randomized Clinical Trial,2015
※2 Mediterranean Diet and Invasive Breast Cancer Risk Among Women at High Cardiovascular Risk in the PREDIMED Trial A Randomized Clinical Trial, 2015
※3 The Nutraceutical Value of Olive Oil and Its Bioactive Constituents on the Cardiovascular System. Focusing on Main Strategies to Slow Down Its Quality Decay during Production and Storage,2019
※4 Preventive effect of extra virgin olive oil on pressure injury development : A randomized controlled trial in Turkey,2020
※5 The olive: A natural supplier of active ingredients for skin lightening and age spot reduction,2011

本件に関するお問い合わせ
井上誠耕園 広報担当 斉藤
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